デザインシステムとは何?イメージ

デザインシステムとは何?作り方・デザインガイドラインとの違い・参考事例まとめ

【監修】株式会社ジオコード Web制作事業 責任者
高松 建太郎

デザインシステムとは、Webサイトなどのデザインにまつわるルールや仕組みをまとめたものです。使用することでプロダクト全体に一貫性をもたせ、ユーザーに快適な環境を提供できます。制作側や企業にとっても多くのメリットがありますが、デザインシステムの作り方や構成を十分に理解していない方も多いのではないでしょうか。

本記事では、デザインシステムについて詳しく解説します。

目次

デザインシステムとは?

デザインシステムとは、デザインに関するルールや仕組みをまとめたものです。
例えば、Webサイトにおけるデザインといえば、色やフォントなど見た目を指すイメージが強いかもしれませんが、ユーザーの使いやすさや読みやすさといった要素もデザインに含まれます。つまりWebサイトにおけるデザインシステムとは、ユーザーが快適に閲覧できるデザインをルール化したものです。

いまいちピンと来ない方は、「これさえあれば優良なWebサイトが完成する」というファイルやテンプレート、プリセットをイメージすると理解しやすいかもしれません。

また、よく練られたデザインシステムほど、導入するとプロダクトそのもののクオリティが上がり、ユーザーはそのデザインを意識することなく快適な環境を得られます。一度作成すれば、使いまわしが可能なこともデザインシステムの特徴です。

デザインシステムの目的は、プロダクトに一貫性をもたせること

デザインシステムの目的は、プロダクトに一貫性をもたせることです。あらゆるデザインをルール化すると、ブレがなくなります。また、それぞれの専門家がルールを精査していく中で高い基準が設定されるため、良質なプロダクトになりやすいでしょう。デザインシステムを作ることで、ユーザーが使いやすいWebサイトの制作ができるようになります。

デザインシステムと混同されやすい言葉

デザインシステムと意味を取り違えやすい言葉として、デザインガイドラインとパターンライブラリ、スタイルガイドの3つがあります。どれもデザインに関する言葉ですが、同じ意味ではありません。それぞれの違いを確認しておきましょう。

デザインガイドラインとの違い

まず、デザインシステムとデザインガイドラインは、目的と範囲に違いがあります。そもそもデザインガイドラインとは、プロダクトの一貫性を保つことを目的とするツールです。デザインシステムと同じ目的のように聞こえますが、デザインガイドラインの範囲は視覚的要素に限定されます。視覚的要素を含む包括的な範囲を対象とするデザインシステムに対し、デザインガイドラインはロゴの使い方やレイアウト、カラーコードといった、ビジュアル面の一貫性を目的・範囲としています。

ただし、デザインシステムもデザインガイドラインも、プロダクトの質を向上させるという目的においては同じです。デザインガイドラインはデザインシステムの一部であり、互いに補完し合うことで、より質の高いプロダクトを実現することができます。

パターンライブラリとの違い

パターンライブラリは、デザインシステムに含まれるコンポーネントライブラリに似た概念ですが、その目的や適用範囲には違いがあります。パターンライブラリはデザインパターンを一覧にしたもので、ビジュアル要素が強く、パターンが作られた背景や経過は含まれていません。対して、ルール化の原則(背景や過程)も含むのがデザインシステムです。なお、コンポーネントライブラリについては後半で詳しく解説します。

スタイルガイドとの違い

スタイルガイドは、デザインシステムを支える要素の一つです。デザインシステムの中にスタイルガイドが含まれるとイメージしてください。大枠的なデザインシステムに対し、ビジュアル面のルールをまとめたものがスタイルガイドです。

なお、ビジュアル面に特化している点で、パターンライブラリとスタイルガイドも混同しやすいです。先述のとおり、パターンライブラリはデザインパターンの一覧、またスタイルガイドはデザインシステムの外観ルールと覚えておきましょう。スタイルガイドについても後述します。

デザインシステム導入のメリット

デザインシステムを導入すると、プロダクトの質が向上し、ユーザーにも良い影響を与えられます。実際にどのようなメリットを得られるのか、企業側・ユーザー側の両方の視点からチェックしてみましょう。

1. デザインを統一でき、ユーザー満足度が上がる

プロダクトに一貫性をもたせるためのデザインシステムは、まず企業や組織内でのデザインを統一できることがメリットです。冒頭でお伝えしたとおり再利用が可能なため、一度作成したものを適用すれば、統一感を保てます。

統一感が保たれたプロダクトは、ユーザーの満足度にもつながります。一貫性がユーザーの満足につながるのは、読みやすさや使いやすさに通じるからです。例えば、ページごとにボタンの位置やフォントが異なるWebサイトは統一感に欠け、ユーザーに不安を感じさせることがあります。一方で、デザインシステムを導入していれば、まとまりがあるという居心地の良さを得られるのです。居心地の良さはやがて信頼に変わり、「ここに来れば、情報を快適に閲覧できる」といったユーザーの良い印象につながります。

2. 生産効率が上がり、コストは下がる

デザインシステムの導入は、作業スピードやクオリティを向上させ、生産効率を高めます。デザインシステムを導入していれば、あとはルールに従うのみのため、各部門も判断に大きく悩むことがありません。例えば新しい機能を追加するときも、デザイナー・エンジニアともに、一から構築するための時間と労力をかけず、スムーズに実行へと移れるのです。

そもそもデザインシステム導入でルール化されていれば、専門のスタッフでなくても広く対応でき、属人化を防げるというメリットもあります。専門家でも一般のスタッフでも、作業時間の大幅カットが期待できるため、開発費に加え人件費の削減にも貢献してくれるでしょう。

3. 他部署とのコミュニケーションが円滑になる

デザインシステム導入がもたらす企業側のメリットとして、部署間でのコミュニケーションがスムーズになることも挙げられます。一つのプロダクトをWeb上で売り出すとすると、プロジェクトマネージャーやデザイナー、エンジニア、外部パートナーなど、実に多くの部署が関わり合うことになります。

デザインシステムによってあらかじめルール化されていないと、Webサイトのレイアウトやテーマカラー、フォント一つで大きく意見を戦わせなければならなくなるかもしれません。導入してもなお意見の食い違いが生じた場合も、ルール化されていると専門外の部分も理解しやすく、意義のある議論になりやすいメリットもあります。総じて他部署とのトラブルを防ぐために、ルールを細かくまとめたデザインシステムの導入は有効なのです。

デザインシステム導入の注意点

企業側にとってもユーザー側にとってもメリットが豊富なデザインシステムですが、導入の際には気を付けなければならないことがあります。場合によっては、導入が効果を発揮しないこともあるため、これから紹介する5つの注意点を守りましょう。

1. 導入の意図が曖昧なまま進めない

デザインシステムを導入する前の注意点としては、意図をうやむやにしないことです。まずデザインシステムの大きな目的は、優良なプロダクトにすること、そしてユーザーの満足度につなげることです。デザインシステムを導入する背景には、企業ごとに「Webサイト構築にかかるコストを〇%下げたいから」「ユーザー満足度を〇%アップしたいから」など、意図するところがあるでしょう。その意図を明確にしないまま進めてしまうと、何のためにデザインシステムを導入したのか分からなくなる場合があります。

なお、意図を明確化するときには、上記のように〇%、〇カ月でなど、細かな数字まで出しておくのが理想的です。進行具合が分かりやすく、方向性がブレにくくなるでしょう。

2. プロジェクトの規模を無視しない

企業・ユーザーともにメリットのあるデザインシステムですが、規模の小さなプロジェクトには適していない場合があります。作成してしまえば後は楽になりますが、肝心の作成に多くの工数を要します。小規模プロジェクトでは、デザインシステムを作成している間に、デザイナーがスタイルガイドを作り、エンジニアが実装するなど、各部門がそれぞれを担当する方が早い場合があるのです。継続する必要のない単発のプロジェクトも同様の理由で、デザインシステムを作らない方がよい場合があります。

一方で、規模が大きく継続が決まっているプロジェクトには、デザインシステムの導入が効果的です。プロジェクトの規模に合わせて導入を検討しましょう。

3. 導入する時期に気を付ける

デザインシステムを導入するときは、時期を見極めなければならないことも注意点の一つです。まだ規模が小さく市場での価値が不明瞭で、プロジェクトメンバーが十分に揃っていない場合は、導入を先送りにする方がよいでしょう。先述のとおり、デザインシステムの導入に工数がかかるばかりで、元が取れないリスクがあります。

デザインシステムの導入に適した時期は、プロダクトが波に乗り始めたタイミングです。具体的には、デザイナー・プログラマーなど、各部門の専門が複数人ずつ配置されたときを目安にしましょう。

4. ユーザー視点に立つことを忘れない

デザインシステムを実際に作成する際は、ユーザーと同じ目線に立つことが重要です。「プロダクトを良いものにしたい」「価値を十分に伝えられる内容にしたい」と思うあまりに、つい企業やクリエイターの視点に立ってしまうかもしれません。しかし、プロダクトの魅力をいくら詰め込んでも、魅力的かどうかを決めるのはユーザーです。ユーザーが見にくい・使いにくいと感じたら、優良なコンテンツとはいえません。

デザインシステムがある程度できあがったら、一度客観的にプロダクトを見直してみましょう。また、さらなる課題抽出のために、実際にユーザーを招いてテストしてみるのも一案です。

5. 導入後もアップデートを怠らない

デザインシステムは、導入後もアップデートが必要です。再利用が可能とはいえ、導入したらそれで安泰というわけではありません。一度導入したとしても、新機能の追加やバージョンアップで、手直しや見直しが必要になることがあります。

既存の仕様で乗り切れるかもしれませんが、それではプロダクトを十分に生かし、ユーザーファーストを実現しているとはいえません。デザインシステムは運用とともに、育て伸ばしていくものだと覚えておきましょう。

デザインシステムを構成する3つの要素

デザインシステムは、大きく分けてデザインの原則とスタイルガイド、コンポーネントライブラリの3つの要素で構成されています。これらの要素は、より良いプロダクトを作るために相互に連携しています。それぞれの概要を確認していきましょう。

要素(1)デザインの原則

デザインシステムの基盤となるのが、デザインの原則です。原則とは、デザインを決定する上での方向性や指針、方針という考え方を指します。例えば、以下のようなものです。

  • デザインプリンシプル
  • ブランドアイデンティティ
  • コンテンツプリンシプル
  • 表現におけるトーン&マナー

デザインプリンシプルとはデザインの方針のこと、ブランドアイデンティティはブランドの理念のことです。表現のトーン&マナーや、用語集なども原則に含まれます。プロダクトの開発はこの原則を基に進められるため、構成の中でも重要な部分です。

要素(2)スタイルガイド

先述のデザインの原則に基づいて、ビジュアル面を定義するのがスタイルガイドです。主にデザイナーが使用するガイドラインを指します。スタイルガイドの例は、以下のとおりです。

  • サイズ
  • 色(メインカラー、サブカラーなど)
  • アイコン
  • タイポグラフィ(文字の配置ルール)
  • 余白
  • レイアウト

スタイルガイドには視覚的なデザイン要素に一貫性をもたせ、プロダクトに対するユーザーの理解を深め、安心感を与える役目があります。スタイルガイドを作成しておくことで、ビジュアル案を一から考える必要がなくなり、デザイナーの負担も軽減します。

要素(3)コンポーネントライブラリ

コンポーネントライブラリは、各ページで使われるUIパーツと、それらを実装するためのコードをまとめたものです。コンポーネントライブラリの例は以下のとおりです。

  • ボタン
  • リスト
  • フォームフィールド
  • ナビゲーションメニュー

コンポーネントライブラリは、主にエンジニアがコードの実装のために使用し、一貫性のあるコーディングを助けるライブラリです。また、繰り返し使えるUI要素を提供してくれるため、UI・UXデザイナーの作業効率も向上させます。

デザインシステムの作り方

デザインシステムは、デザインの原則、スタイルガイド、コンポーネントライブラリの3つの要素を、計画的に順序立てて作成することで完成します。実際の作り方をチェックしていきましょう。

STEP(0)良いデザインとは何かを明らかにする

3つの構成に取り組む前に、「良いデザインとは何か」を制作チームで明確にしておくことが重要です。プロダクトの視覚的要素に限らず、ユーザーに感動体験を届けるにはどうすればよいのかに焦点を当て、ドキュメントするところから始めます。

デザインを定義付けると同時に、企業全体のビジョンやミッション、ユーザーに与えたい付加価値など、プロダクトの軸となり大枠となる部分も再確認しておくとよりブレを抑えられます。

STEP(1)デザインの原則を決める

デザインの定義が決まったら、それに基づいて原則を設定します。具体的には、デザインやプロダクトの方針やブランドの理念、トーン&マナーなどです。原則を決めるときは、「プロダクトやブランドをどのようなターゲットに、どのような形で届けるのか」を念頭に置いてください。

準備編と同じく、デザインの原則を決める工程は全体の統一性に大きく関わる部分です。ブレを防ぐため、時間をかけてじっくりと決めましょう。

STEP(2)スタイルガイドを作成する

デザインの原則を基に、次はスタイルガイドを作成していきます。デザイナーが中心となって、パーツのサイズやメインカラー・サブカラーといった色、アイコン、余白など、視覚的要素のデザインルールをドキュメント化していく工程です。

スタイルガイドを作成する上で、気を付けたいのが盛り込みすぎないことです。全体の注意点と同じく、小さめのプロジェクトに多くのルールは必要ありません。時間や労力が無駄になってしまう可能性もあるため、プロジェクトに見合った最低限のガイドラインに仕上げましょう。

STEP(3)コンポーネントライブラリを作成する

スタイルガイドが完成した後は、ボタンやリストといったUIパーツとコードをまとめたコンポーネントライブラリを作成していきます。流れとしては、デザイナーがスタイルガイドを基にしてUIパーツをデザインし、エンジニアが実装のためのコードを組みます。

スムーズなコンポーネントライブラリ作成のコツとしては、デザイナーとエンジニアが互いに実現可能かどうかを見極めることです。例えば、あまりに凝ったデザインのボタンを各ページに実装すると、コードが複雑化したりサイト全体が重くなったり、エンジニアの視点からすると現実的ではないかもしれません。両方の視点を交え、現実的なラインを探ることがユーザーの満足にもつながります。

デザインシステム作成に役立つアイテム

デザインシステムは3つの工程で作成できるとはいえ、一から作り上げようとするとなかなかの労力を要します。そこで以下では、デザインシステムを作るにあたって、役立つアイテムを2つ紹介します。

1. デザイン関連の本

デザインシステムを作成するにあたって、デザインを基礎から学びたい方には本がおすすめです。デジタル社会となりUI・UXのニーズが高まるにつれて、デザイン関連の本が多く出版されるようになりました。デザインシステムは先述のとおり、デザイナーだけでなくエンジニア、プロダクトマネージャーなど、複数の部署の専門家が関わります。プロダクトの関係者全員がデザインの概要を理解できていれば、よりスムーズに作成できるでしょう。

2. 作成・運用・管理ツール

デザインシステムを導入する段階で活用したいのが、作成・運用・管理のためのツールです。導入段階に合わせたさまざまなツールが提供されており、中でも管理ツールを取り入れると、デザイナー・エンジニアの連携が容易になります。スタイルガイド・コンポーネントライブラリといった各要素がひと目で確認できるため、プロダクト全体の一貫性が保ちやすく、後々の運用がスムーズになるのもメリットです。

デジタルシステムの事例

最後に、デザインシステムの事例を2つ紹介します。デザインシステムを実際に導入したときのイメージをつかむため、または質の高いデザインシステムを作成するための参考にしてみてください。

(1)デジタル庁のデザインシステム

日本のデジタル社会を牽引するデジタル庁では、行政機関や公共機関に実装されることを想定したデザインシステムを一般公開しています(※)。ユーザーが使いやすく見やすいことをコンセプトにした、白を基調としたシンプルなデザインが特徴的です。デジタル庁デザインシステムの事例は、マイナンバーの手続きを行うデジタル庁のWebサイトで確認できます。

行政機関や公共機関の作業効率がアップする仕様になっていますが、各企業のデザイナー・エンジニアの他、誰でも無料で利用可能です。使いやすさ・見やすさといった、アクセシビリティを優先させたいときにおすすめします。

※参考:デジタル庁.「デジタル庁デザインシステムとは」.(参照 2024-08-23).

(2)大手企業のデザインシステム

Webサービスを展開する大手企業の中には、デザインシステムを公開しているケースもあります。例えば、Google のマテリアルデザインのサイトでは、デザインとデザインの原則について押さえておくべき事柄をまとめています。

Appleのデザインシステムであるヒューマンインターフェースガイドラインでは、AppleのOSに必要なビジュアルガイドラインやスタイルガイドが含まれます。デザインに迷ったらとりあえず参考に閲覧しているデザイナーも多くいるため、デザインシステムに携わるなら一度目を通しておくと参考になるでしょう。

※参考:Google.「Material Design 」.(参照 2024-09-09).
※参考: Apple.「Human Interface Guidelines」.(参照 2024-09-09).

UI・UXの向上に役立つデザインシステム

プロダクト全体に一貫性をもたせ、ユーザーに快適さをもたらすのがデザインシステムです。デザインガイドラインより適用範囲が広く、デザインシステムがあれば、全体のデザインを統一して管理することができます。生産性の向上やコストの軽減、部署間のコミュニケーションをスムーズにすることがメリットです。

プロジェクトの規模や導入タイミング、導入後の運用には注意が必要ですが、注目すべきはアクセシビリティの確保に役立つということです。ユーザーの快適性なしに、良質なWebプロダクトは生まれません。デザインシステムをうまく取り入れ、最終目標であるUI・UXの向上を目指してみてください。